プロダクトのUIサウンドデザイン入門 for UX - ui sound for ux

1."発音設計"の考え方とプロセス

対象プロダクトの理解

■ 対象プロダクトの機能と操作フローの整理

まずは対象機のUIと動作全体を把握することから始めましょう。今回デザインするサウンドはあくまでもUIの一部です。実機および操作マニュアルを利用して、UI/動作の全体像を整理します。

物理ボタン等による固定UIで、比較的単純な機能の機器の場合はシンプルに整理できますが、タッチディスプレイ等により次々と表示UIが変化していくような場合は整理も複雑で大変です。下の図は固定UIの操作整理の例、表はディスプレイUIの操作整理の例です。書き方はこれに縛られる必要はありませんが、UIの全体像や流れがわかるような書き方を工夫してみて下さい。

複雑なUI構造を持つ機器については、よく使う操作フローを取り出して別途書き出しておくことも重要です。

■ 現状のUIサウンドと作動音の調査

作成したUI/動作図表には、現在利用されているサイン音が、どの操作で、どういった目的で発音されているのかを記入しておきましょう。音を表す擬音語なども記述できれば書いておくとよいでしょう。できれば現在のサイン音を録音しておきましょう。

また機器の作動音を把握しておくことも重要です。ユーザが作動音を聞くことで機器の状態がわかるかどうか(わかる場合、報知音が必要ないこともある)、また作動音が大きいことでUIサウンドをマスキングしてしまう可能性についても把握しておきましょう。実際の利用の様子を動画撮影しておくとよいでしょう。

■ 使用場所とユーザの観察

対象機器をユーザが利用する様子を観察しましょう。実ユーザの日常的な利用状況を観察するのがよいでしょう。ここから、主な操作フローの抽出、それ以外の操作を行う頻度、エラーの発生頻度などを知ることができます。

また、機器がどのような環境(部屋、場所など)で利用されているか、周囲にユーザ以外の人がどのくらいいるか、その人達は何をしているかを併せて観察します。音は直接ユーザのみならず周囲にいる人にも聞こえるものだからです。

■ 利用者へのインタビュー

インタビューを通して、現状のサイン音の問題点および機器UIに対するニーズを抽出しましょう。インタビューの対象は、日常的にその機器を利用するユーザ、および、周囲で日常的にその音を聞いている間接的聴取者にもインタビューしましょう。

ユーザに対しては、現状サイン音についての印象、利点/問題点をヒアリングするとともに、機器利用そのものの良い点や問題点も併せて聞き取ります。後者を聞く理由は、機器UIそのものの問題をUIサウンドで解決できる場合があるためです(例えば、知らないうちに動作終了していることがあるといった場合、終了サイン音を採用することで迅速に停止を知ることができる、など)。

間接的聴取者に対しては、聞こえてくる現状のサイン音についてどう感じているか、音を聞く頻度、音の印象、間接的聴取者の作業に対する影響等をヒアリングしましょう。いつもサウンドが耳にする方々の意見は重要です。

■ 発音システムの把握

現状、音はプロダクトのどこから聞こえていますか?発音素子やスピーカーはプロダクトのどこに配置されていますか。そもそもスピーカーがない場合もあるでしょう。

発音システムを把握しておく必要があります。せっかくサウンドを一新しても、スピーカーがなければ鳴らせないかもしれませんし、鳴らせても思っていた音と違う音に聞こえてしまう場合もあります。
発音システム関して以下の事項を把握しておきます。

サウンドデザインを依頼するデザイナーには必ずこれらの情報を伝えておく必要があります。発音システムの限界に応じてサウンドデザインを行う必要があるためです。逆に言うと、発音システムによってはサウンドデザインの自由度が著しく狭まる場合もあります。例えば、帯域の狭い圧電サウンダでは深く豊かな音色は再生できません。

ときに、UIサウンドデザインを行うタイミングで、発音システム自体を見直すことも必要になるでしょう。

■ 規格の調査

警報、報知音、エラー音、操作音に関してISOやJISに設計条件が定められている場合があります。あるいは業界規格が存在するものもあります。これらについては予め調査しておきましょう。

例えば、「JIS S 0013:高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活製品の報知音」では、家電を含む消費生活製品の操作音や終了音、エラー音などについて記述されています。ここでは、圧電素子で発音するような「周波数が一定の定常音」を前提に、音の時間的発音パターンで情報(メッセージ)を表すものとしています。例えば、開始音は「ピ」、終了音は「ピーピーピー」といった具合です。ところでこの規格には、リッチな音色やメロディーはこの限りではない、ということも記述されています。本コンテンツで想定するような多彩な音色についての規格は少なくともJISには存在しません。では全く自由にデザインするかというと、やはりJISの発音パターンの確認はしておくべきでしょう。例えばJISに沿うと「開始音は“ピ”」という1音であるのに、新しくデザインするサウンドが「終了音で“ポ”」という似た音を採用すれば、やはり混乱を招くでしょう。きっちり杓子定規にはいきませんが、できる範囲で規格を踏襲する工夫は行うべきだと思います。

一方で当然ながら、必ず守らなければならない規格もあります。それは確実に押さえておく必要があります。

※UIサウンドを含む規格やガイドラインの例

【JIS】

【ISO】

【その他】