3.操作感のデザイン
ボタン押下音の高さ
ボタン押下音に限らず報知音全てについて、JISでは「2.5kHz以下の周波数を採用することが望ましい」とされています。これは加齢による聴力低下に配慮した指針です。以前は4kHzという高い「ピ」音もよく利用されていました。しかし最近はJISの効果もあり2kHz程度の報知音が多く利用されています。
私たちが行ったタッチパネルでのボタン操作音のピッチに関する研究(※1)では、サイン波2kHzのボタン押下音も悪くはないものの、押下感、応答性、確実性の観点からはサイン波1kHz、1.5kHzのピッチの方が良いと評価され、長くボタンを押し続けるような状況の場合は、より低い750Hzのピッチの方が支持される結果となりました。
一方、音の現場での聞こえを考えると低い操作音・報知音は注意が必要です。プロダクトそれ自体の動作音や低域が強めの環境音に対して報知音が聞こえにくくなる可能性があるためです。発音時の音圧レベル調整で聞こえを必ず確保する必要があります(※2)。
ちなみにここに示したものも含め、実験対象や現在多く利用されている報知音は単一周波数(サイン波/正弦波)が多いことには十分注意が必要です。現在の多くの報知音は2kHzだと書きましたが、この2kHzはピアノの鍵盤でいうとだいたいC7 = 基本周波数2093Hz(88鍵ピアノの一番上から二つ目のド)になります。ピアノの音色のC7でUIサウンドを鳴らすのはやはり高すぎるでしょう。サイン波と違ってピアノの音色や多くの一般的な音色は「倍音を多く含む」からです。加齢への配慮から2.5kHz以下に充分な周波数成分を含みながら、かつ、環境音に埋もれにくいことにも配慮しつつ、ピッチ(聞こえの高さ)は利用する音色に応じて選択する、ということが必要になります。
※1
中村, 光本, 和氣:操作反応音のピッチと操作性に関する検討, 日本音響学会2016年春季研究発表会, 2-4-17, pdf2pages, 2016
※2
日本規格協会:「JIS S 0014 高齢者・障害者配慮設計指針 - 消費生活製品の報知音-妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル」, 2013